Hyogo
神戸市(兵庫県)は人口150万人の国際港湾都市として、大阪の労働者階級ストリート文化とも東京の富裕層展示文化とも異なる「洗練された速度美学」を育んできた。1868年開港以来の外国人居留地・多国籍企業集積・コスモポリタンな気質が、「紳士的にスピードを追求する」独特の車両文化を生む。六甲山系(標高931m)を背景に持つ地形は、大阪環状線のような違法ストリートレースではなく、「週末早朝の六甲ドライブウェイ」という半合法的な速度体験を提供—港町の国際性が、モータースポーツにも「マナーある速さ」を要求する。
神戸のモータースポーツ愛好者は「大阪より上品、東京より実践的」という自己認識を持つ。鈴鹿サーキット(名神・新名神経由110km、約90分)へのアクセスは大阪とほぼ同等で、京都・大阪を経由せずに直接アクセスできる地理的優位がある。六甲山麓の高級住宅街に住む輸入車オーナー(メルセデスAMG・BMW M・ポルシェ911)が週末にサーキット走行—「平日は神戸港湾貿易、週末は鈴鹿」というライフスタイルが、商社・海運・金融関係者の間で定着した。大阪の「中古シビックで環状線」とは対照的に、神戸は「新車輸入スポーツカーでサーキット」という経済格差を体現する。
六甲山は神戸の非公式「峠(touge)文化」の舞台だが、大阪環状族のような組織的違法レースは発生しにくい。六甲ドライブウェイ(有料道路、普通車620円)・裏六甲ドライブウェイ・表六甲ドライブウェイという整備された観光道路が、「早朝5〜7時の空いている時間に楽しむ」という暗黙のルールで運用される。警察の取締りは厳しいが、「観光道路の営業時間外を狙った合法的速度体験」は黙認—神戸らしい「秩序の中の自由」だ。摩耶山・六甲山頂からの大阪湾パノラマビューが、スピード追求に美的価値を付加する。
神戸は1995年阪神・淡路大震災で壊滅的被害を受けた都市として、「復興と車文化」の特殊な関係を持つ。震災後の都市再建で道路幅員が拡大され、モータリゼーションが加速—「震災を生き延びた喜びを、車で走ることで表現する」という心理が一部に存在する。神戸メリケンパーク・ハーバーランド周辺の海沿いドライブは、「速さではなく景色」を重視する神戸流ドライビングの象徴だ。輸入車ディーラー密集度は大阪を上回り、「外国製高級車が似合う街」という自負が、モータースポーツにも「国際水準」を要求する。
鈴鹿サーキットへの神戸からのアクセスは、新名神高速道路開通(2017年全線開通)で劇的に改善された。神戸西IC→新名神→鈴鹿IC経由で110km・約90分・高速料金3,500円—大阪・京都の渋滞を避けられる利点が大きい。神戸のサーキット走行者は「早朝5時神戸発→6時半鈴鹿着→朝一番走行枠確保→夕方帰神」という効率的パターンを確立した。Central Circuit(兵庫県多可郡、2.8km)は地元サーキットだが、現在はカート中心で「本格的サーキット走行には物足りない」評価—結果として鈴鹿へ流れる。神戸のモータースポーツは「国際港湾都市の洗練さ」と「大阪・東京への対抗心」の狭間で、独自の「上品な速度美学」を追求し続けている。