Tokyo
東京都は日本の首都として3,700万人超の巨大都市圏を形成しながら、「車を所有するのが最も困難な都市」という矛盾を抱える。駐車場月額5万円超、車庫証明取得の困難さ、都心の狭隘な道路が自動車文化を阻害する一方で、富士スピードウェイ90km、鈴鹿サーキット380kmという距離が「都会のサーキット難民」を生み出す。大黒PA・辰巳PAでの深夜ミーティングが唯一の解放区—駐車場に停めて眺めるだけでも月5万円かかる東京では、「車を走らせる」より「車を見せる」文化が支配的だ。
東京のモータースポーツ愛好者は「金はあるが走る場所がない」という特異な階層を形成する。年収1,000万円超のIT企業役員が週末に富士スピードウェイ(首都高・東名経由90分)へGT-Rで通い、1日走行料3〜5万円+ガソリン代+タイヤ消耗を負担する。鈴鹿は遠すぎる(片道5時間)ため、「富士で妥協する東京人」という自嘲が生まれた。筑波サーキット(常磐道経由80km)は「手頃だが技術コースすぎて初心者に厳しい」、もてぎ(北関東道経由120km)は「オーバルがメインでロードコースはおまけ」という認識—東京からはどこへ行っても「帯に短し襷に長し」だ。
東京の車両文化は「見せるための改造」に偏重する。大黒PAに集まるGT-R/スープラ/フェアレディZは外装・ホイール・車高調に数百万円かけながら、「サーキット未経験」も珍しくない。辰巳PA(レインボーブリッジ直下)は首都高C1ループの起点として「かつての走り屋聖地」の面影を残すが、現在は警察の厳重監視下で「停車するだけで職質」状態だ。東京の若者は「金持ちの展示会文化」に反発し、地方サーキットへ移住する例も—「東京で車を買う金で、地方なら家とサーキット年間パス両方買える」という経済合理性が「東京脱出組」を生む。
富士スピードウェイは東京人にとって「唯一現実的な選択肢」だが、トヨタ所有・ホンダ鈴鹿への対抗心・1.5km直線という個性が「富士派vs鈴鹿派」論争を生む。東京在住者は富士の利便性を主張するが、関西人から「富士は直線だけ、鈴鹿は総合力」と揶揄される屈辱を味わう。2022年開業の富士スピードウェイホテル(ハイアット運営)は「サーキットに泊まれる贅沢」を1泊5万円〜で提供し、東京の富裕層を吸引—「土曜夜ホテル泊→日曜朝から走行→夕方帰京」パターンが定着した。しかし鈴鹿ファンからは「ホテルで誤魔化しても、コースレイアウトの差は埋まらない」と批判される。
東京のジレンマは「日本最大の資金力」と「日本最悪の走行環境」の同居だ。モータースポーツ関連企業本社・チューニングショップ旗艦店・輸入車ディーラー最大集積を持ちながら、実際に走れる場所がない。結果として「机上の空論」が蔓延—雑誌・YouTube・SNSで語られる「東京のスーパーカー文化」の大半は、実走行を伴わない虚飾だと地方サーキット常連は冷笑する。「東京は車を消費する場所、地方は車を走らせる場所」—この役割分担が、日本のモータースポーツ階層を固定化している。